無料ブログ作成サービス JUGEM
愛情の残り滓
 霧散していった暖かさは同時に幸福も連れて行ってしまった。痛いほどの静寂と冷え切った室内で、手始めに煙草を吸うことにした。ジッポを擦るとジジとフィルターが焦げた。今日はうんと濃い目の珈琲を飲もう。それからフランスパンをトースターで焼いて、目玉焼きとベーコンを焼こう。野菜は、ああ切らしているんだった。帰りに市場に寄って、久し振りに馴染みのおじさんに逢ってこよう。帰りのそのままマスターのところで暖かいお酒を出してもらおう。さあ手始めに珈琲だ。
 煙草を銜えたまま、床に足を滑らした。カーテンを開け放った時、不意に眩暈を覚えた。冷え切った室内よりもフローリングのほうがうんと冷たい。いろいろ思い巡らして気分を誤魔化したのに、その刺すような冷たさに不意に、鼻の奥にぐっと熱さが込み上げた。亡くしてしまった。自分から望んだことだったはずなのに。もう何も残っていやしない。
「  」
 口は開いたものの、言葉はなかった。言うべき言葉も名前も何も、自分には無いから。ただひとり、脳裏に蘇る顔があった。懐かしい愛おしい、昨夜まで自分のものであった、その、ああもう言葉がない。
 夜明けが美しいと教えてくれたのはあいつだった。光の線が滲みだすように広がり、自分に向ってまっすぐ垣根を鱗のように輝かせて迫ってくるのだ。
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
笑い飛ばしてね
どうしてなんか知らない
きっと笑い飛ばされる 笑い飛ばしてくれたらいい 笑い飛ばしてくれないと
どうしていいか解らない

口先で突き放したのは、あなたか、それとも、あたし自身か

その両方とも、ぜんぶが、うだる様な暑さで溶けて、無くなってしまえばいいと思った
それは切ないくらいの願いとして、あたしから滴り落ちては、水溜りを揺らした
流した涙と、受け止めた涙と、浅ましい願いと、鋭利な痛みが、滴って、足元には水溜り
深くて、濁っている水溜りを、爪先で時折掻き混ぜるように揺らした
うまれた波紋は、広がって、やがて、弱くなの、消えてなくなる
あたしの痛みは酷くなるばかりだ 願いも、我が儘も大きくなるばかりだ

留めかたも知らない

ああそう何も知らない

どうしてなんか知らない
笑い飛ばしてね 莫迦らしいって一笑してね 笑い飛ばしてくれないと
どうしていいか解らない

口先で突き放したのは、あなたと、それから、あたし自身と
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
あなたがいる
頬が蕩けるようなカスタードを口一杯に含んで、あたしは目を細めた

香ったのは記憶の奥底の夏の始まりを告げる湿度の高い花の香り
極彩色を誇らしげに讃え、花たちは太陽の繁栄を祈るばかり
手折られたこの赤い花もまた、太陽を愛するものたちに等しい
ガラスのグラスのなかの水槽でやがて息絶えるのに、太陽を愛することを止めたりはしない
せめて水を愛すれば、花瓶の中に囲われたもの同士、解け合えるかもしれないのに


手を繋ごうかという問いかけはなかった
だからといって自然にというわけでわなく、ぎこちなく手は重ねられ、あたしの手は大きな低めの体温に包まれた
どこか爬虫類を思い出さすしっとりとした肌に触れるのは、初めてではないけれど
こうしてはっきりと、二人きりで、素面で、昼間に、手を繋ぐ、というのは初めてだった
「なんで」
向こうからの発言がなかったので、あたしはとりあえず突っ込んだ
「なにが」
「なんで、」
手を繋いでいるの、と言おうと思ったが、手を繋ぐ、という単語を口にするのがなんだか憚られ
あいているほうの手で問題の箇所を指した
細い目が、ゆっくりとあたしの指先を辿り、顔を上げてこちらを見る
何か言うのかと思ったが、二度首を縦に振り頷く仕草をみせただけだった
腑に落ちないなし崩しだったが、あたしはそれ以上突っ込むことも気にすることも面倒臭くなり
それにこういったなし崩しが自分たちにはいつも流れているお似合いで
まあわざわざ離すこともないかと口をつぐんだのだ


初めて手を繋いだのは、とっぷり更けた夜のこと
その日の星はとても奇麗で、きらきらと瞬く美しさに見下ろされながら、二人で夜道を歩いたものだった
問いかけはなく(問いかけがあったことは未だかつて無い)隣を歩いてるが故に、軽く触れた手を、無言で強く引かれた
向こうが無言なので、あたしも声を出しにくく、
何だか手を繋いでるのか、引っ張られてるのか、解らないまま続きの帰路を辿り出し
「あつい」
隣から不平が漏れて
「じゃあ手離したら?」
と提案したけれど、ものの見事にスルーされる
体温はいつのまにか混ざり合って温かくなり、離しがたい心地よさすら感じた

これだ、この生暖かい静けさが、どうにも心地よく、沈みたくなってしまう


あたしたちの間に会話というものは、あまりなくて
時折あたしが毎日の出来事を早口で(充分遅いよと相手には言われる)伝え
ほんの時折、早口で(あたしに合わせた遅めらしい)話される日常に頷く
あたしたちの間に距離というものは、あまりなくて
多用に与えられるスキンシップを甘んじて受けるあたしと
距離を埋める相手によって、空いていた空間はいつの間にか小さくなって
ゼロに、なるのも、いつのまにか、起ってしまうのかもしれない
不快感よりも、もう慣れが勝っている、というのが、あたしの感じる距離


あたしは本来の目的であるこじんまりとしたカフェの窓側の席で、
たっぷりのカスタードクリームのうえにきらきら宝石のような果物がちりばめられたフルーツタルトを注文した
それから濃度の濃いミルクで煮だされた甘いロイヤルミルクティー
目の前に座った相手はアーモンドを混ぜ込んだチーズケーキとエスプレッソ
店内に流れる甘ったるくも清楚な香りに似合った可愛らしく静かな女の人の歌声
あたしの隠れ家、とったおきのお気に入りカフェ
ここに誰かと来るのは初めてで、けれど嫌な感じはなくて、むしろ行くかと聞いたのはあたしで、相手は二度頷いて、いいよ、と言ったのであり
なんていうかあたしは少しわくわくして、とてもリラックスしていた
カラフルな写真の乗ったメニューを見ているといると、落ち着いて、眠気すら誘発される
事実あたしはこの人の前で、何回か、深い眠りに堕ちた事がある
それは二人きりだろうとおかまいなしの、耐えきれない眠気で、あたしは
煙草のにおいの染み付いた上着をかけられ、髪をゆっくりと梳かれながら、沈みこむように心地よい眠りに堕ちたものだった

染み付いた匂いは、バニラの甘い匂い。
この人が吸うのは、バニラの香りの白いパッケージの煙草。

きらきら宝石みたいなタルト
甘い甘いバニラの匂いを纏った重いニコチン
程よく冷めたロイヤルミルクティー
卓上の紅い赤い花

それは、うっとりするような午後
そんな午後の続きも、あたしのなかで、いつも、いつもの、まあるい円を描くのだ



手を繋ごうかと聞かれたら、頷くしか道がないと、あたしが知るのは、もう少し後
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
水溜まりを避ける
20070417_277424.jpg
春なのに寒い雨の日

挨拶するのは勇気がいる
無視するのはとても簡単

折り畳み傘を広げて
自分を完璧に制御する方法を見落さないように
猫背な後ろ姿から目を逸らした
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
願わくば拡大阻止を
自分自身が解らないことを、断定系で言われるのは米神が痛みます
たぶん取り巻く世界のなかで、あたしが一番解ってなくて着いていけてない
とりあえず何か危険な匂いがしたので、苛々して気がすごくたってます
誰かに説明して欲しいくらいぜんぶが解らない、広がってしまったということ以外は

つまりどういうこと?
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
これは密かな溺れ死に
20070413_275031.jpg
じわじわ蝕まれて醜くなる

幸福は不幸を連れて来て

日常は痛みを産み続ける

でも溺れていてもいいよ

あたしの胎内で暖めるから

大切にやわらかく護るから

このまま溺れているよ
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
「いつか」の終わりを知っている
簡単に突き放して、軽率に手を振って、そうすることしか、できない

目を見ることができなくて、俯いて、あなたの足元ばかり見ていたら、いつの間にかその靴を描けるようになった。いつだったか、あなたはその靴を褒めちぎっていて、だから、なんだかちょっとその靴に憧れてしまう。だってその靴だったら、毎日あなたの家に帰れるどころか、大切にされて、いつだって体温を感じていられるんでしょう?でもその靴だったら、今みたいに時々だけれど、あなたに頭を撫でてもらうことはできないから、やっぱり人間のままでいいかなぁなんて思ったり、最近あたしのこころは忙しなくて優柔不断のうえに、とても情緒不安定のセンチメンタル。

「お花見してくれるって言ったのに」

恨みがましく呟いたけれど、なにげなく、できるだけ軽く誘って、いいよと言われた時点で、きっと叶わないって思っていたから、べつに悲しくなんかないの。むしろ、ほんとうに一緒に行ってくれる気がなくたって、いいよ、と言ってくれたそのことが、じわりとあたしのこころを滲ませる。けれど、散り散りになって舞う白が、うそみたいに綺麗で、欲張りなあたしは、やっぱり一緒にお花見がしたいと思ってしまう。なんで人間ってどんどん欲望が溢れて、満足できないのかな。

「踊り狂う白い白い、美しさは、万死に値する」

手を伸ばして、宙を踊り狂う白を掴んだ。そっと開いた手の平に唇を寄せて、そっと、あなたの姿を思い描く。小さな幸せは、あたしを、凍えるような不安に急き立てる。あなたの姿を見るたび、あなたと言葉を交わすたび、その体温に触れるたび、あたしのこころは一瞬の暖かさと、永い永い痛みをつくりだす。

「その熱は、身を焦がすものだけが知りうる、蜜の味」

出逢ったころから変わらず、あなたは、いとも簡単にあたしの髪をかき混ぜて、その体温で触れてくるけれど、あたしは、最近、顔を上げれなくなってしまった。あなたの靴先をじっと見ているか、背中を向けたまま、どうしていいか解らなくて、小さく身じろいで首をすくめる。逃げて、距離をとって、突き放して、そんな可愛げのないあたしに、あなたはいつか、きっと、触れてくれなくなってしまうのか、と思うと、悲しくて寂しくて、目の奥が痛んだ。自業自得だ。振り向いて、声をかければいいだけなのに。息が詰まって、それどころじゃない。

「燃え尽きる刹那に、全てを賭ける」

そのあまりの気安さが、あたしの苦しさを育てあげる
手を振るためには距離がいる、突き放したいわけではないのに、遠ざける事しかできない

心臓を掴める距離で、小さく首を竦めるあたしに、あなたが触れなくなるのは、明日ですか
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
可愛くない女であること
20070406_270440.jpg
自己嫌悪で吐いて、知る

もうすでに溺れていると
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
この距離感を愛したい
意識に組み込まれつつある存在を、日常だと勘違いしてしまう

それがいかにヤバイかは嫌になるほど解ってはいるのだ

すでに日常になっているそれを、日常ではないと言い聞かせる繰り返し

変わらず遠くにある存在を、近くだと錯覚してしまわないように

依存があたしにとってどれだけ危険かなんて解っているから

溺れないようにただ気をつけるだけなの、ただそれだけ
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |
うそを繰り返す理由
うそが上手いと言われると、喉の奥が微かな違和感を持つ
唇はつらつらと流れるように言葉を紡ぐことができるから
考えなくても誰かを騙してしまう、その呆気なさが罪だと
言葉をせき止めることで、まえよりはうそが下手になった
けれど相変わらず自分を騙すことだけが、あまりに完璧で
うそが上手い、と言われはじめた何年か前まで、あたしは
いつだってうそをつかれ騙されてそれでいいと思っていた
うそが異常にうまい理由は、まだうそで覆い隠していたい

なのにまた昨日、つかなくていいうそをついてしまったよ
| くらげ | あたしのゆび | comments(0) | - |